【市況レポート】「スポークスパースンの言葉の重み、市場が敏感に反応」「中国の国内消費と輸出戦略、世界市場への波紋」他 2024年10月

  • by 中尾 治美

米国雇用統計好調!FRBのソフトランディング戦略が功を奏したか?

  10月4日発表の9月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から25万4000人増加しました。市場予想の14~15万人増をはるかに上回りました。失業率は4.1%で、市場予想の4.2%を下回りしました。平均時給は前年同月比で4.0%上昇しました。市場予想は3.8%でした。前月比でも予想を0.4%上回りました。
 これは先月18日に米連邦準備制度理事会(FRB)が2020年3月以来の政策金利を市場予想金利、0.25%を上回る大幅な金利、0.50%の引き下げを断行した効果大きいと言わざるをません。FRBが景気の芽を摘まないようにソフトランディングを目指した強い意志が市場に前向きに迎え入れられた結果であると思います。

スポークスパースンの言葉の重み、市場が敏感に反応

 利上げ論者であった石破茂首相が変節し、首相就任翌日、10月2日(水)、日銀の植田和男総裁との会談後、“現在、追加利上げをするような環境にあるとは考えていない”との発言を受けて3日(木)の東京市場で急速な円安・株高が進行しました。これは9月27日(金)の総裁選で勝利すると、石破氏の経済政策への警戒感から、30日(月)に日経平均株価が1900円以上も急落する“石破ショック”を招いた反省からの変節と言われています。それに加え、10月4日(水)の米雇用統計発表で雇用情勢の失速懸念が薄らいだのと、FRBの利下げペースが鈍るとの市場の見方からドル円相場はドル高・円安、$1.00=149円まで下げました。
 新総理は、思慮に欠ける失言が不必要なドル高・円安を招き国民を苦しめていることを認識すべきです。日銀の植田総裁に至っては、過去に何度も失言をしています。特にひどいのは、4月26日(金)の日銀の金融策決定会合後、円安を容認するような発言をし、$1.00=155円台のドル円レートが、4月29日(月)、一気に$1.00=160円台まで円安に進みました。政府、財務大臣、財務省及び日銀総裁はいずれの場合にも日本国民を守る良きスポークスパースンであるべきであると思います。失言を避け、言葉の重みをしっかり理解してもらいたいと思います。米連邦準備制度理事会の歴代議長、現職のジェローム・パウエル氏、一代前のジャネット・イエレン氏、二代前のベン・バーナンキ氏の米国の国益を踏まえた素晴らしい発言はスポークスパースンの見本です。是非、見習ってほしいと思います。

 2024年ドル円為替の動きは年初の$1.00=140円から7月の160円、9月の140円の幅で上げ下げし、10月7日(月)現在、$1.00=148と円安に振れています。輸入物価はますます高くなります。10月に値上げされた食品や飲み物は約3000品目で、2024年で最も多くなると言われています。

中国の国内消費と輸出戦略、世界市場への波紋

 10月1日は中国の建国記念日にあたる国慶節です。大型連休が7日間続きました。その間、延べ19億人以上が民族大移動をしたと言われています。一日当たりの平均移動者数は2.8億人で、その内、8割以上が鉄道、マイカーの移動です。コロナ禍前の2019年より2割近く多いと言われています。中国の2023年のGDP対比の個人消費は39.2%を記録していますので国内景気に大いに貢献してくれると思います。国慶節の海外渡航先で日本が一番の人気があるということで、多くの中国の方が日本に来られていました。日本の国内景気に貢献してくれています。

 一方、中国政府は電気自動車(EV)、太陽光液晶パネル、半導体、個体電池開発などに対して直接、間接補助金を出して輸出攻勢をかけています。2023年の中国の自動車生産能力は4870万台に上り、輸出を含めた販売は3000万台で38%の生産余力を持っています。また電気自動車(EV)の生産台数は2024年で1000万台を超える可能性が高いと言われています。EV化に舵を切った欧州にとって中国製EV車の安売り攻勢は大きな脅威となっています。このことは各国の自国産業に対して深刻な影響を与え、経済安全保障上、問題が出ています。その結果、欧米は関税を掛け自国産業を守る保護主義政策を強めています。今、中国が取るべき政策は国内景気を高める国内景気浮揚政策ではないでしょうか!

 米国の電子商取引アマゾンに匹敵する中国発格安越境電子商取引(EC)のTemu(テム)が世界を席巻しています。2023年9月サービス開始以来、急成長を続けています。8月のアプリ利用者は首位アマゾン比91%まで迫り、年内にはアマゾンを上回る勢いです。世界84カ国・地域で6割強のシェアを占め、欧州30ヵ国中28カ国でTemu(テム)が独占しています。米国では$800以下の小口貨物には関税がかからず、輸入手続きも簡単。自前倉庫をもつアマゾンと違い、消費者に直送で格安に販売しています。米国は9月から小口関税免除措置の見直しを発表しました。

北米港湾ストライキ回避、その裏側にある戦略

 北米東岸港の使用者団体、米国海洋連合(USMX)と労働組合の国際港湾労働者協会(ILA)が現地時間10月3日(木)、賃金面で暫定合意に達し、現行労働協約を来年1月15日(水)まで延長し、ストライキは回避されました。ストライキが起こった場合、10万個弱のコンテナが港に滞留し、今後1週間に更に35隻の船舶がストライキ期間中滞船し、サプライチェーン、特に米国自動車産業にかなりのダメイジを与え、米輸入品の約5割に影響が出て、一日数十億ドルの経済損失が見込まれていました。
 米商工会議所はバイデン大統領に、労働者の保護を制限できる“タフト・ハートレー法”の発令を求めましたが大統領は拒否しました。これは11月4日(月)の投票日に向け民主党支持を労働者にアピールを狙ったものです。使用者団体・米国海洋連合(USMX)は大幅譲歩を受けざるを得ませんでしたが、船会社・荷主双方にとって、ストライキによる混乱という最悪の事態が避けられたことは良かったと思います。

コンテナ運賃11週連続下落!海運業界の最新動向

コンテナ船運賃指標(WCI) 2024年10月3日 ※Drewryより参照
航路名ドル/FEU前週比前年比
総合指数3,489-5%151%
上海/ロッテルダム3,815-8%271%
上海/ロサンゼルス5,258-4%163%
上海/ニューヨーク5,922-2%120%

 Drewryが10月3日に公表したコンテナ運賃(WCI)の総合指標は前週比5%減の$3,489 per FEUとなり、11週連続の下落となりました。今週の総合指標は、コロナ禍期の2021年9月時点と比較し66%低下していますが、コロナ禍前の2019年の平均水準と比較すると約2.5倍となっています。
 年初から現在までの総合指標の平均値は$4097 per FEUとなり、過去10年間の平均水準と比較し$11269 高くなっています。

同じくDrewryが発表したCancelled Sailings Trackerによると, Week41(10月7日~13日)からWeek45(11月4日~10日)までの東西航路(太平洋航路、大西洋航路、アジア/欧州・地中海航路)往航全体の欠航率は13%となる見通しです。国慶節による需要減退を見込んで、欠航率が高くなっています。航路別の内訳は、太平洋航路の東航が52%、アジア/欧州・地中海航路が28%、大西洋航路の西航が20%となっています。

海運アライアンス再編と50億ドルM&Aの行方

2025年2月からスタートする4大アライアンスの全容が明らかになりました。

 プレミア・アライアンス

構成メンバーはOcean Network Express(ONE)、HMM、Yangmingの3社で、MSCとアジア/欧州航路でスロット交換を行い、抜けたHapag Lloydの穴を埋めます。

 MSC

単独運航を基本としますが、アジア/欧州はプレミア・アライアンスとアジア/北米東岸航路はZIMと協調します。

 ジェミニ・コーポレーション

MaerskとHapag Lloydの2社構成。

 オーシャン・アライアンス

CMA-CGM, Cosco, Evergreen, OOCLで提携期間を2032年まで5年間延長しました。

 コンテナリース業界で世界第二位のTextainer(4.29 million TEU)による世界第五位のSeaco(2.4 million TEU)買収の話はどうなっているのでしょうか?まだ話は続いているようです。Seacoの親会社は中国の複合企業、世界海航集団(HNA Group)です。彼らは2021年1月に負債総額1兆1000億元(約19兆円)で倒産しました。中国最大の倒産と言われました。現在再建途上にあります。彼らのSeacoの売値が$5 billion(=7,500億円)以上とのことですが、今後Seacoが保有するコンテナは、毎年、価値を下げています。今後のコンテナ市況を見たときに果たしてコンテナの価値が上がる状況が出て来るのか疑問があります。一方、コンテナリース産業は成長することで企業価値が出てきます。Seacoが成長するために積極的なコンテナ投資ができないと企業価値は年々下がっていきます。名門のコンテナリース会社が消えることは大変残念なことではあります。

新造コンテナ在庫増加、需要低迷の兆候か

 9月の新造コンテナ価格は$2,050 per 20fです。先月より6.8%, $150 per 20f安くなりました。先月と同じで鋼材、床材の値下がりが主な要因です。新造コンテナ総数は810,861 TEU(Dry: 786,365TEU, Reefer: 24,496TEU)です。前月からの変化は、生産総数 -2.4%(Dry: -2.2%、Reefer: -8.3%)でした。DryもReeferも現在の弱含みの市況を反映して徐々に下降線をたどっています。先月からDry及びReeferの発注量は夏場の需要期にも拘わらず盛り上がりがありませんでした。その結果、新造コンテナ工場残は、100万TEUを超え、1,014,304 TEU(Dry: 955,802 TEU, Reefer: 58,502 TEU)と増加しました。前月からの変化は、総数は+5.5%(Dry: +6.1%, Reefer: +2.9%)と増加傾向にあります。9月に工場から出荷された本数は、総数757,970 TEU(Dry: 731,746 TEU, Reefer: 26,224 TEU)となりました。今年9カ月間の平均で年末まで発注が続くとすると7.5百万TEUを超える数字が見えてきます。

EFIは新たな人材確保で更なる飛躍へ

 9月以降6名の新人がEFIに加わりました。皆さん優秀な方で大変満足しています。人手不足と言うのは間違いで、各人の力を発揮できる場所が無いというのが現実だと思います。各人が持っている能力を生かすのが我々首脳陣の役割であると考えています。36名の陣容となりました。会社はますます成長していますので良い人がいれば参加してほしいと思っています。社員に喜んで頂ける会社にしていきたいと思っています。

関連動画「米東海岸港湾スト早期終結の真相」

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