【市況レポート】「社員への投資が企業の未来を変える、今こそ賃上げを!」「中国の余剰鉄鋼と自動車輸出、補助金政策の裏側」他 2024年6月

  • by 中尾 治美

社員への投資が企業の未来を変える、今こそ賃上げを!

  政府のコーポレートガバナンス強化政策のお陰で企業改革が行われ、資本コストを意識した経営や株主優先主義が外人投資家を呼び込み、日経平均株価は2月22日に1989年のバブル期の最高値3万8957円を更新、3月4日に、史上初めての4万超え、4万109円23銭で取引を終えました。
 上場企業の2024年3月期の純利益は、43.5兆円となり、前期比13%増、また3期連続の過去最高を更新しました。2024年3月期の内部留保は555兆円で11年連続の増加です。これは日本の2023年の名目GDP、591兆円にほぼ匹敵します。
 東証株価指数(TOPIX)構成企業の2023年度の配当総額は19兆円で、10年前の8兆円に比べて2倍以上増加し、配当性向は26%から36%に上昇。更に自社株買いは約10兆円となり、10年前の5倍に増加。配当と自社株買いを合わせた2023年度の総還元性向は53%に達して、純利益の半分以上が株主に還元されました。10年前、2013年度の総還元性向は35%程度でした。
 一方、資本金10億円以上の大企業の労働分配率は38.1%、前年度から2.1ポイント下がり、過去最低でした。資本金1億円未満の中小企業の2023年度の労働分配率は70.1%で、前年度から1.2ポイント低下し、1991年度以来の低水準です。厚生労働省が作成した産業別労働分配率推移表を見ると、2000年以降、コロナ禍の2020年の例外の年を除き、ほとんどの産業(情報通信業を除く)で右肩下がりです。全産業(金融保険業を除く)の推移でも右肩下がりが見て取れます。
 日本の企業が次にやるべきことは人、社員に対する投資です。
 ここで提案があります。大企業が率先して社員の給与を上げる。他国の社員が羨ましくなるくらい上げる。全社員の給与の底上げを図るのはもちろんのこと、優秀な社員に対して給与をさらに上げることに躊躇しない。今後、所得倍増計画を実践してはどうか?やる気がある社員は更に会社に大きな利益をもたらすように頑張ること間違いありません。
 1960年に首相になった池田勇人氏が打ち出した“国民所得倍増計画”、10年間で国民の所得を2倍にする目標を掲げ、1961年度~1970年度の10年間で年平均7.2%成長を達成し、その後の日本経済は所得倍増計画を超える経済成長を達成し、1968年には米国に次ぐ世界第二の経済大国になったのを思い出していただきたいと思います。
 勿論、民間企業だけではできないので、国が一緒になって、労働環境改善に対する投資も断行し、働きやすい環境を整備すれば社員は新たな意欲を持ち、会社の競争力、差別化を生み出すと確信します。大企業を取り巻く下請け会社、中小企業もそれを見習い、その波に乗ろうと賃上げを行い、賃上げ上昇連鎖が生まれてくると思います。賃上げが物価に反映され正しい成長スパイラルを創り出すことを日本は達成できると思います。

米経済軟着陸の実現は困難か?景気減速の懸念

  米労働省が7日発表した5月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から27万2000人増加。事前の予想を上回りました。平均時給は前月比で0.4%上昇しました。市場は米連邦準備理事会(FRB)の利下げ時期が更に後退すると見ています。米国ISM製造業購買者担当景気指数は5月48.7となり、4月49.2に比べて悪化しています。ニューヨーク連銀が14日に発表によると、2024年1~3月期に新たにクレジットカードの支払いを遅延した割合は8.93%と、13年ぶりの高水準となりました。住宅ローン金利も30年固定で7%を超えており、中古住宅の販売も落ち込んでいます。国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費に減速感が広がっています。景気後退を回避する軟着陸は果たして実現できるのか疑問が出てきます。

ユーロ圏経済が回復!パリ五輪の経済効果は計り知れない

 ユーロ圏20カ国の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)が6月6日、0.25%の利下げ開始を決めました。2019年9月以来、4年9ヶ月ぶりです。インフレ鈍化に対応するものです。既に3月にスイス、5月にスウェーデン、6月5日にカナダが既に利下げを実行しています。歴史的に高水準にある政策金利の調整が世界各国で出てきています。
 ユーロ圏の1~3月期の実質域内総生産(GDP)が前期比0.3%増加で、年率換算は1.3%増となりました。ユーロ圏の5月の総合購買担当者景気指数(PMI)は、1年ぶりの高水準、52.3を記録しました。EU圏は着実に景気回復に勢いが出てきています。
 7月26日、オリンピック・パラリンピックがフランスのパリで開催されます。日本の経済波及効果が2016年に開催されたリオ五輪並みの2560億円と期待され、東京五輪の2476億円を上回ると見られていますのでフランス、EUでの経済効果は日本の比ではないと思います。欧州経済に与える影響は計り知れません。

中国、64億元を地方政府に投入しEV車買い替え促進で景気浮揚を狙う

 中国関税総署が6月7日に発表した貿易統計によると、1~5月の新興国(ASEAN, ロシア、南米、アフリカ)向けの輸出が前年同期比6.7%増加、454億ドルと発表しました。欧州連合(EU)は前年同期比4%減、日本同8%減、韓国同5%減、オーストラリア同6%減で、米国は0.2%増となりました。米欧が対中規制を強化しているので、中国が米欧の貿易分野での対立を避けて新興国への輸出を拡大しているのが分かります。
 中国国家統計局が5月31日に発表した5月の製造業購買担当景気指数(PMI)は49.5となり、3カ月ぶりに50を下回りました。不動産不況まっただ中で、内需活性化のために、中国政府は6月3日、新エネルギー車などの買い替え促進策の原資として64億4千万元を地方政府に交付すると発表しました。年間378万台の新エネルギー車の買い替えを目標にしています。国内景気浮揚、特に地方景気の活性化、雇用対策、EV車過剰生産調整、貿易摩擦緩和など一石二鳥、いや一石三鳥、四鳥を狙っています。

シンガポール港とポートクラン港の混雑で運賃高止まり懸念

 Drewryが6月6日にコンテナ船運賃指標(WCI)を公表しました。

コンテナ船運賃指標(WCI) 2024年6月6日 ※Drewryより参照
航路名ドル/FEU前週比前年比
総合指数4,71612%181%
上海/ロッテルダム6,03214%315%
上海/ロサンゼルス5,97511%215%
上海/ニューヨーク7,2146%142%

 コロナ禍前の2019年の平均水準と比較すると約3.3倍なっている。シンガポール港の混雑に加え、マレーシアのポートクラン港も悪化しており、今後数週間は運賃が高止まりする可能性が高いとしています。また、同社が7日に発表したキャンセルド・セイリング・トラッカー(Cancelled Sailings Tracker)によるとweek24(6月10日から16日)からweek28(7月8日から14日)までの間に東西航路(太平洋航路、大西洋航路、アジア―欧州・地中海航路)の往航全体で49便の欠航が発表されました。欠航率は7%に相当します。

過去最高の新造コンテナ船竣工量、過剰問題の解決は喜望峰にあり

 昨年の11月中旬以来、イエメンの武装組織フーシ―派による、世界の貿易の12%が通過する重要な航路である紅海・スエズ運河、を航行する商船攻撃により、ほとんどの定期船会社が2024年初めには喜望峰回りを選びました。アジア~欧州間の輸送日数は平均で17日間長くなりました。一方、英国市場調査会社、Maritime Strategies(MSI)は、喜望峰経由でweekly serviceを維持するためには最大200隻のコンテナ船を追加する必要があると試算していました。
 欧海事調査会社アルファライナーによると、アジア/欧州間に投入されるコンテナ船の船復量は2月時点で633万TEUとなり、前年度期から19%増加し、船会社の中で最大の伸びを示したのが世界最大のコンテナ船社MSCで、前年比54%増、約140万TEUであるとしています。2024年の過去最高の新造コンテナ船竣工量問題、15,000TEU以上の大型船が83隻、140万TEU以上竣工することによる過剰船舶問題は、喜望峰経由に投入されるコンテナ船需要が上手く解決してくれているようです。

米の報復関税で荷動き急増、ハブ港の混雑でコンテナ不足深刻化?

 欧州航路のコンテナ運賃高騰は配船が安定してきた4月頃に落ち着いてきました。
 北米航路は米国消費が堅調のため、荷主が北米東岸港湾労使交渉を懸案、パナマ運河は、現在、通航制限が始まった2023年8月以前の水準の9割程度まで回復していますが、引き続き、不安材料の一つです。5月14日にバイデン政権が不公平だとみなした国、中国、に対して報復関税を課すことができる通商法301条を発動しましたので、米国荷主の課税前の積み増し在庫に拍車を掛けました。これは米国小売業協会(NRE)が発表している荷動き6ヶ月先予測で分かります。6月10.7%増の203TEU, 7月5.5%増の202TEU, 8月7.1%増の210TEU, 9月0.5%増の204TEUで一貫して200万TEU超えが続くと予想しています。
 しかし、ここにきて世界的にハブ港の混雑が目立ってきました。特にシンガポール港の混雑が目立ってきています。3日程度の沖待ちが常態化してきています。PSA(港湾運営会社)が休眠状態だった市街地に近いターミナルを再稼働させて対応しているとのことです。これは欠便、抜港などで基幹航路船が満船状態で運航されるため、Vessels Bunching(数珠繋ぎ状態)が発生しています。貨物が集中するハブ港への高負荷問題が、今後、コンテナ船のスペース不足及びコンテナ不足を更に深刻化していく、大きな要因であると考えます。この問題が解決できない限り、今我々が直面している問題は解決しないと言えます。

中国の余剰鉄鋼と自動車輸出、補助金政策の裏側

 中国は8.8億トンの世界の鉄鋼需要の半分以上を生産する生産能力を持ち、余剰鉄鋼を輸出してきました。造船、コンテナ、シャーシ―の輸出は国策です。その点自動車輸出も例外ではありません。中国の自動車生産能力は4000万台あり、国内販売台数は2200万台で、1800万台の輸出能力があります。2025年には1100万台のEV車製造が予想されています。その大部分が輸出に回ると考えられます。中国では100社以上の自動車メーカーがあり、その自動車メーカーが、夫々、生き残りをかけて競争しています。海外へ出ていく中国メーカーはその競争に打ち勝ったメーカーだけです。これは他産業の中国メーカーにも言えます。補助金で安価な製品による不当競争は、本来、制限すべきですが、品質の良い製品であれば、我々も切磋琢磨して良い製品を造る必要があると考えます。

2024年5月の新造コンテナ情報

 5月の新造コンテナ価格は先月より約10%値上がりして、$2,250 per 20fでした。新造コンテナ総数は727,181 TEU (Dry: 698,412 TEU, Reefer: 28,869 TEU)でした。先月からの変化は、総数+32%(Dry: +34%, Reefer: +20%)となりました。新造コンテナ工場残は、761,451 TEU (Dry: 499,874 TEU, Reefer: 61,577 TEU)です。先月からの変化は、総数-5%(Dry:-6.4%、Reefer:+4%)でした。5月の工場からの搬出本数は、768,058 TEU (Dry: 745,885 TEU, Reefer: 22,173 TEU)となりました。
 コンテナ価格の急激な上昇(10%UP)は、工場からの搬出本数が5月分の生産総数では足りず、それ以前の在庫数も減らすほどの活況であったためと言えます。中国のコンテナ各メーカーが、今後のコンテナ価格の上昇を考慮したDryコンテナ大量受注を見越して、増産体制入ったと言えます。

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