【市況レポート】「庶民の生活を守れない日銀・財務省」「投機的なリースコンテナの活躍」他 2024年5月

  • by 中尾 治美

庶民の生活を守れない日銀・財務省

  現在、5月8日14時の円ドル為替は$1.00=Yen155で推移しています。じりじりと円安基調にあるようです。この円安が、庶民の生活に大きな負担をかけていることは、日頃スーパーでお昼の弁当を買って済ませている我々自身が痛いほど実感しています。
 最新の帝国データーバンクの調査によると2024年5月の食品値上げは417品目に上り、年間では7000品目を突破するとみています。円安による原材料高による値上げが再燃しており、円安の進行が値上げの圧力を高めているのは間違いありません。そうした現状下、何を考えたのか日銀の植田総裁は4月26日の金融政策決定会合後の記者会見で、“現在の円安が物価上昇率に今のところ大きな影響を与えていない!”と発言したものですから、市場は早期の利上げは無いと受け止め、会見中にも関わらず円売りが膨らんで円安が止まらなくなり、4月29日には$1.00=Yen160台を付けるまでになりました。現在の庶民感覚を理解していない人が国の政策を動かしていることに大きな不安を覚えます。
 日銀総裁の仕事は金融政策を遂行することも仕事ですが、投機筋は日銀総裁の一挙手一投足に注目していますので、学者である植田総裁はご自身の理論、信念を説明するだけでなく経済政策実行者として金利を上げる意思はなくとも、“上げるぞ!”、“上げるぞ!”と言うような駆け引きを行うことも必要ではないでしょうか?これ以上円がヘッジファンド等の機関投資家に投資目的で利用されていることを看過できません。日銀・財務省はそれを防止して日本国民の生活を守ることが大切です。
 財務省は34年ぶりの円安、$1.00=Yen160台に達した4月29日と5月3日の2度に亘り8兆円規模の円買い介入を実施しました。円買いに入るならもっと早く、$1.00=Yen130の時に入っていたら、現在の円ドル局面はもっと違ったものになっていたのではないかと考えます。その時、日銀・財務省が円を守る本気度をもっと強く見せていたら投機筋はここまで円を食い物にできなかったと思います。我々庶民も円安に悩まされないで済んだと思います。
 日本企業は現在、税引き株主配当後の内部留保600兆円を抱えています。設備投資、M&Aにもそれなりに使っています。しかし日本企業は社員に投資することがより高い生産性を上げることを理解すべきです。社員への投資は、社員のチャレンジ精神に火をつけます。日本、或いは日本企業は、社員への投資により、米国移民が米国を活気づけているのと同様の効果を引き出すことができると確信します。

移民流入の影響が大きい米労働市場

 米労働省が3日に発表した4月の雇用統計の非農業部門の就業者数は前月から17万5000人増加。市場予想である24万人を下回りました。失業率は3.9%でした。労働市場のひっ迫がいくぶん緩み、軟調基調にあると言えそうです。過熱気味であった求人件数は3月848万8000件で、前月から3.7%減少しました。4月の平均時給は前月比で0.2%上昇したが、市場予想の0.3%を下回りました。2023年から急増している移民流入が人手不足緩和に貢献しているとしています。また、2024年も300万人以上の移民入国を予測しています。連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は現状の金利水準が景気の減速効果を上げている証拠として求人件数の減少を挙げ追加利上げを否定し、なおかつ利下げの先延ばしを示唆しました。しかし、パウエル議長が金利を下げる決断をする時には米国経済のソフトランディングは難しくなっている可能性があります。

ユーロ圏経済に明るい兆し

 EU統計局が4月30日に発表した欧州連合加盟国27カ国の20ヵ国が参加するユーロ圏の1~3月期の実質域内総生産(GDP)は前期比0.3%増加でした。市場予想の前月比0.2%増を上回りました。直前の2四半期が連続のマイナス成長でしたので、ロシア・ウクライナ戦争による経済低迷から欧州企業が持ち直してきたようです。国別ではドイツが前期比0.2%増のプラス成長となり、2四半期ぶりに景気後退を回避しました。フランスは0.2%増、イタリアは0.3%増、スペインは0.7%増となりました。3月のユーロ圏の消費者物価指数は伸び率が前年同月比で2.4%と3ヵ月連続で鈍化しました。4月も前年同月比2.4%の上昇で同水準となりました。インフレ圧力で高騰していた食品価格が落ち着いているとみていますので欧州中央銀行(ECB)による6月の利下げ転換が射程に入って来たようです。

順調な中国経済、供給過剰が新たな課題

 中国国家統計局が4月16日に発表した1~3月の国内総生産(GDP)は前年度比5.3%増加でした。また同局が4月30日に発表した4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.4でした。3月は50.8でしたので、2カ月連続で好調・不調の境目である50を上回りました。但し、生産主導で景気の持ち直しが順調のようですが、供給過剰の危惧も残っています。1~3月の工業生産は前年同期比6.1%増加し、2023年通年の伸び、4.6%増加を上回りました。一方、不動産不況による内需不足問題を如何に解決するかが経済回復の大きなカギとなっています。その一つの解決策として、中国政府は乗用車の買い替え促進策を発表しました。旧型の乗用車から電気自動車(EV)など新エネルギー車に買い替えた場合、1万元(約22万円)の補助金を支給するものです。新エネ車の国内販売を促進し、生産能力の過剰問題解決及び諸外国との経済摩擦問題の緩和を狙っています。

相次ぐコンテナ運賃値上げと欠航

 Drewryが5月2日に公表したコンテナ運賃指標(WCI)は次の通りです。

コンテナ船運賃指標(WCI) 2024年5月2日 ※Drewryより参照
航路名ドル/FEU前週比前年比
総合指数2,7251%55%
上海/ロッテルダム3,1032%89%
上海/ロサンゼルス3,371-1%85%
上海/ニューヨーク4,3820%55%

Drewryは次のように言及しています。
主要船会社は運賃値上げを計画しています。
1)アジア/欧州・地中海航路 ― 5月1日付FAK(品目無差別運賃)レートの値上げ。
2)5月15日付で第二弾の値上げを計画。
船会社は5月6日から6月9日間に東西航路(太平洋航路、大西洋航路、アジア/欧州・地中海航路)の往航全体で35便の欠航を発表しています。欠航率は5%に相当します。
太平洋航路の東航が57%、アジア/欧州・地中海航路が29%、大西洋航路の西航が14%となっています。アライアンス別ではオーシャンアライアンスが12便、ザ・アライアンスが9便、2Mが5便、非アライナンスが9便となっています。
中国・アジアからの夏場に向かう輸出増加、喜望峰経由の迂回や欠便による空コンテナ回送減によるアジア側での空コンテナ不足が顕在化しています。

2024年4月の新造コンテナ情報

 新造価格は$2050 per 20f, $50、2.5%の値上がりです。 新造コンテナ生産量は549,270 TEU (Dry: 521,070 TEU, Reefer: 28,200 TEU)。4月末の新造コンテナのコンテナ工場在庫は802,328 TEU (Dry: 747,347 TEU, Reefer: 54,981 TEU)となりました。実質的に工場から搬出された本数は545,636 TEU (Dry: 510,902 TEU, Reefer: 24,734 TEU)でした。当月に生産されたDryのほとんど同数、Reeferの半数以上が搬出されました。 

投機的なリースコンテナの活躍

 総論として、海上運賃は夏場の需要期に向かって上昇して行くと見られます。中国は製造業の生産増加を図り中国経済を活性させようとしていますが、その過剰在庫の販路を海外市場に求めざるを得ないからです。一方、米国小売業協会が、今年10月の北米東岸港湾労組によるストライキの可能性及び米国が中国製品に対して追加制裁関税を課徴する可能性を鑑み、その前に輸入促進を図ることは、中国と米国消費者の利害が一致します。パナマ運河の水不足による通航制限、並びにイエメンの反政府勢力フーシ―派の紅海における船舶攻撃によりスエズ運河が通航困難に陥りコンテナ船の95%が喜望峰ルートを選択せざるを得ない状況は、船腹供給過剰問題の一つの解決にはなるかもしれませんが、需要地である中国・アジアへのコンテナ空回送に対して船会社に大きな問題を残します。その結果、投機的に新造コンテナを中国で製造しているリース会社にとり、今年後半から新造コンテナの需要が出て来る可能性があります。コンテナリース会社のコンテナ稼働率は引き続き99%に近い数字を維持すると考えます。

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