【市況レポート】「喜望峰ルート長期化が及ぼす船腹供給量と海上運賃への影響」「名古屋駐在員事務所を開設」他 2024年2月

  • by 中尾 治美

 天気予報通り2月5日(月)午後から雨が大雪に変わり、帰宅時の夕刻6時過ぎにはかなりの積雪がありました。横浜は4センチとのことでしたが10センチは積もったのではないか?と思うほど雪の深さに足を取られて帰途につきました。足元を固めながら急勾配の上り坂を歩き、バランスをとりながら下り坂を歩きました。東名、中央道、関越の各高速道路と都心部の首都高速が全て閉鎖されたため、幹線道路はかなりの車で大渋滞しました。一般道で大型トラックがガラガラとチェーンの音を立て、雪を跳ねながら動いては止まり、渋滞の中を我が物顔で走っていました。雪に慣れていないドライバーは戸惑った様子でハンドルを握っていました。一歩路地に入ると、上り勾配がきつい坂道、急な下り勾配の道では、コントロールを失った車が立ち往生して、何台かの車が放置されていました。数年に一度、見るか見ないかの光景です。

シンガポール出張、円安の影響と意外な寒さ!

 1月の第4週、シンガポールに出張しました。1年振りのシンガポール。昨年は入国手続きで戸惑いましたが、今年の入国審査は全てIT器械操作で完了です。必要情報を入力したアプリが入ったスマホをかざし、パスポートと指紋照合で入国となりました。一方、相変わらず円安のおかげで全ての物が上がっています。私のシンガポールドルと円の換算感覚は、S$1.00=Yen 60~80。今ではS$1.00=Yen 110なので40~80%は値上っています。
 その上、シンガポールは寒かった。ホテル、レストラン、事務所も冷房がビンビン効いていました。面談した駐在の日本人の方が会社ロゴ入りのフリースジャケット着て寒さを凌いでおられたのが印象的でした。もしシンガポールが冷房温度を日本程度まで上げると、経済効果、カーボンニュートラルに大いに貢献すると思います。

FRBの高金利戦略、利下げの時期は?

  米労働省が2日発表した1月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が前月比35万3000人増加、失業率は3.7%、2年間連続の4%割れ、平均時給は前年同月比、4.5%上昇。労働市場は強さを保っています。一方、離職者数、340万人はCOVID-19前の水準に戻っていますので、既に雇用は頭打ちになってきていると言えます。労働者は二分化されていて、大部分の人が、コロナ支援金が底をつき、クレジット限度額を使い果たし、割賦支払いで凌いで支出を減らすために、安いものを買い求めているようです。堅調な労働市場が米国経済をリセッション(景気後退)から守っていることは確かです。
 この好調さを背景に、市場は米連邦準備理事会(FRB)の利下げを予想、しかし、パウエル議長は今年第一弾の3月利下げの可能性を否定しています。企業の投資意欲、力強い個人消費がある早いうちに段階的な利下げを開始し、米国経済の足腰を強くする必要があるのではないでしょうか?米国経済の屋台骨である個人消費者(GDPの7割を占める)の大きな柱の一つは新築住宅購入です。その購買意欲を高め、新築住宅建設業者に積極投資をしてもらう環境づくりが必要です。
 米サプライマネイジメント協会が2月1日発表した米国製造業景況感指数は15ヶ月連続で好不況の分かれ目である50を切っています。FRBが利上げした時期と重なります。また、2月2日のニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)の株価急落による米地銀の経営不安を、2023年3月にシリコンバレーバンク(SVB)から始まった一連の地銀破綻の再来としないためにも、利上げの早急な修正を行うべきです。これ以上の高金利維持政策は米国経済に決してプラスに働くとは思えません。

ストライキによる賃金上昇は欧州経済の好循環を導くか?

  欧州連合(EU)が2月1日発表した1月のユーロ圏の消費者物価指数は、速報値で2.8%に上昇しましたが、伸び率は2ヶ月ぶりに鈍化したと報じています。欧州はインフレ対策の金融引き締めが功を奏しているようです。2023年7~9月期の前年同期比の実質賃金増加率は英国が1.6%、ドイツが0.6%、因みに米国は0.7%です。欧米の労働者はストライキで実質賃金を上げています。その為、良い意味で物価高、賃金上昇、購買力アップの好循環となり、経済成長が軌道に乗るのも遠くないと思います。

豚肉需要から見える中国経済の低迷!

  中国国家統計局が1月31日発表した1月の購買担当者景気指数(PMI)は49.2と2023年4月(2023年9月を除く)以降50を下回っています。恒大集団破産に続き碧桂園の経営危機が表面化し、中国GDPの3割を占める不動産バブルが崩壊の危機に直面しています。新規受注不足が主な原因です。先行き不安を抱く企業は新規雇用に慎重です。消費物価指数(CPI)は2023年12月まで3カ月連続で前年同月を下回りました。
  米ブルームバーグが「豚肉の価格が1年前より20%ほど安いのに、販売量は例年の3分の2程度にとどまっている。」という北京市の食肉販売業者の話を紹介し、「豚肉需要は引き続き軟調だ。これは、給料の減少が家庭の需要に打撃を与え、消費の足を引っ張っていることの表れだ。」と評したことを伝えています。中国経済の復活にはもう少し時間がかかりそうです。

日銀の低金利戦略に提言、「円高は日本の品格です!」

  欧米がCOVID-19後のインフレ対策として金利を上げインフレを抑え込み、ストライキで賃上げに成功しています。日本銀行の植田和男総裁にも一言申し上げたい!“どうせ世界の金利が下がるなら、今、敢えて上げて、リスクを自分が取る必要もないな!”と植田総裁は考えていませんか?日本はインフレでなくデフレなので金利を上げる必要は無いと前黒田総裁は思っていたのでしょうが、私に言わせると、日本で物価が上がらなかったのは企業努力です。それは円が強かったからです。過去10年に及ぶ黒田前総裁のゼロ金利政策により円高修正($1.00=Yen100 → $1.00=Yen140)は達成されました。
 上場企業で2024年3月期の業績見通しを円安効果で上方修正する企業が相次いでいますが、一流企業は円高でも利益を出せる体質ができています。企業は500兆円超えの内部留保をかかえているにもかかわらず、人的投資、給与を上げることを抑えてきました。例えば、国が給与を上げる企業を政策で優遇しておけば、失われた30年はバラ色に変わったはずです。インバウンドは円高でも日本に興味を持っている方は来日します。しかし、日本だけがゼロ金利を堅持しています。そして円キャリ―で莫大な日本円が海外に持ち出され日本円の価値を下げています。その結果、円は全通貨に対して弱くなっています。企業数で99%、従業員数で約70%を占める中小企業の従業員は円安効果で苦しい生活を強いられています。日本は特別な国ではありません。金利と通貨力は連動しています。勿論、通貨力は金利差だけではありません。日本経済を通常の経済活動に戻すためにも通貨に力を与えるべきです。貨幣の力は国家力です。円高は日本の品格です。

喜望峰ルート選択が海上運賃に及ぼす影響

コンテナ船運賃指標(WCI) 2024年2月1日 ※Drewryより参照
航路名ドル/FEU前週比前年比
総合指数3,824-4%88%
上海/ロッテルダム4,661-6%169%
上海/ロサンゼルス4,4212%115%
上海/ニューヨーク6,1650%91%

  多くの船会社が紅海情勢の悪化のため喜望峰ルートへの迂回を選択しています。12月以降アジア発欧州・地中海向け運賃は上昇傾向にありましたが、1月中旬頃から上昇の勢いは鈍化し、2月には下落に転じました。Drewryは、旧正月で中国の生産が止まり、出荷の鈍化で当面運賃の大きな変動は無いと予想しています。

Hapag LloydのThe Alliance脱退によるアライアンス再編の可能性

 1月17日にHapag-Lloydが2025年1月にThe Allianceから脱退し、2025年2月から、Maerskと新アライアンス“Gemini Cooperation”を開始すると発表しました。Hapag LloydのThe Allianceからの離脱は驚きをもって受け取られています。これでThe AllianceはONE、Yang Ming、HMMの3社となります。しかし残念ながら、その規模は、3社合計してもMSC、或いはMaerskのいずれにも達しません。3大Alliance外のWan Hai Linesを入れることが取りざたされています。それでも3大Allianceの一つとして対抗していくには規模的に見劣りします。その結果、Ocean Allianceを含めた再編成の可能性も残っています。

2024年1月の新造コンテナ情報

 1月の新造コンテナの価格は$2100 per 20fで先月から$100値上がりしました。1月の新造コンテナ生産数は415,595 TEU (Dry: 395,878 TEU, Reefer: 19,717 TEU)でした。1月末の新造コンテナ工場在庫は796,456 TEU (Dry: 735,133 TEU, Reefer: 61,323 TEU)で先月から89,077 TEU減りました。現在、中国は旧正月休みに入っていますので殆どの工場は2月3週目まで休みになるようです。

喜望峰ルート長期化が及ぼす船腹供給量と海上運賃への影響

  船会社は、COVID-19期間中の巣ごもり需要、リベンジ需要の影響による運賃高騰の機会を逃すまいと、中国で2020年後半から2022年前半まで、約1000万TEU以上のコンテナをリース会社から仕入れました。余剰地からのコンテナ持ち帰りでは高運賃獲得に間に合わないため、大量のコンテナをリースしたのです。そのため、2023年はその余剰コンテナの処分、リースコンテナの返却に集中してきました。しかしリースコンテナは返却場所、返却本数が月々決められていますので、まだかなりの余剰感があります。問題なのは余剰地から需要地である中国・アジアに適時に持ち帰ることが難しいということです。特に冬場の配船は通常の3分の2に減便されています。
 イスラム組織ハマスを支持するイエメン武装組織フーシ派による船舶攻撃のために、スエズ運河の通航を取りやめ、喜望峰経由にすることによる運航費増を受けて、欧州・地中海航路では12月に2度の運賃値上げを実施しました。1月以降も紅海航行の安全性が確保できないため喜望峰経由が長期化する可能性が出ていますので、1月も運賃値上り傾向にありましたが、従来のような旧正月前のカーゴラッシュも見られませんでした。その上、中国経済もいつもの力強さが感じられません。

日本郵船調査グループの資料によると2023年から2025年の新造コンテナ船の竣工数と就航量は次の通りです。

竣工隻数竣工量
2023年2942,035,000 TEU
2024年3842,376,000 TEU
2025年2472,112,000 TEU

今年、新造コンテナ船が多く竣工します。喜望峰周りでの必要な船舶数、量は問題ないと思います。米国経済のソフトランディングを期待したいと思います。ロシア・ウクライナ戦争及びイスラエルとハマスの紛争がありますが、欧州経済も時間が解決してくれると思います。最後は中国の景気次第では無いでしょうか?

名古屋駐在員事務所を開設

 最後に、弊社の話になりますが、今年1月中旬に名古屋駐在員事務所が稼働しました。責任者は、中部資材でThermo Kingのservice dealerとして長年勤めあげ定年を迎えられた後藤佳昌さんにお願いしました。後藤さんの貴重な経験と人脈の広さを活かし、名古屋を中心とした中部圏のお客様に対して幅広いサービスを提供できることに、我々も、大変喜びと誇りを感じております。皆様のために、さらにより良いサービスを提供できるように頑張ってまいりたいと思っておりますので、引き続きご指導・ご鞭撻をお願いいたします。

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