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米国経済、雇用市場は絶好調も先行きは不透明
6月2日、米労働省が発表した5月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は市場予想の19万人を上回り、前月から33万9000人増加しました。失業率は4月の3.4%から3.7%に上昇しました。平均時給は前月から0.3%上昇です。前年同月比では4.3%の上昇でした。但し、米連邦準備理事会(FRB)は米経済が年後半には景気後退局面に入ると予想しています。その理由として、
1)COVID-19に対する米政府現金給付の家計貯蓄が底をつき消費支出が減る。
2)銀行破綻の影響により金融機関は融資に消極的になる。
3)企業は雇用に慎重になる。
しかし、IT業界に見られるように需要減退を見越し人員削減を実施する業界が有る一方で、中小自営業界では高い賃金を提示しても必要な人が集まらないという2極化の現状をみますと、インフレが賃金上昇を後押ししてCOVID-19後の混乱した米国経済を健全な方向に向かわせる力強さを感じます。
“Everyday low price”の標語で有名なウォルマートの2~4月期の決算は8%の増収で、米国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費は低価格志向を目指し逞しく生活防衛に向かっています。また一方、米富裕層の高級品購入、外食、旅行は増加傾向にあります。ブランド品の販売も好調です。一例を上げれば、23年1~3月期の決算を発表した高級ブランド仏LVMHモエヘネシー・ルイビトンの総売り上げの2割を占める米国市場は前年比8%増加となりました。
しかし、急激な利上げによる全米住宅市場の約9割を占める中古住宅販売需要の落ち込みは、米国経済の先行きを不透明にしています。FRBの高金利政策(5.5%金利)はインフレに対して、ある程度カンフル剤として作用したと考えます。FRBのパウエル議長に、これ以上の高金利政策は米国経済だけでなく世界経済回復の芽を摘みかねないので、そろそろ高金利政策の変更をお願いしたいと思います。
国際航空運送協会(IATA)は2023年の世界の航空旅客需要が43億人でCOVID-19前、2019年の96%の水準まで回復する見通しを発表しました。しかし、営業利益の見込みは2.8%で、2019年の5.2%に及ばないとしています。また、運賃の高止まりは人件費の増加によるところが大きいとのことです。
日本の株式市場は熱狂、実質賃金は13ヶ月連続減少、早急な円安是正を。
日本の上場企業の2023年3月期の純利益の合計が前年度期比1%増の39兆881億円と、2期連続で最高益を記録しました。その結果、株式市場では外国人投資家が4月以降、日本株を爆買いし、日経平均株価は5月22日、33年ぶりに3万1000円台に乗せました。6月1日に1ドル138円台半ばを付けていた円ドル相場は6月5日、外国為替市場で1ドル=140円台半ばまで値を下げてしまいました。
帝国データバンクによると6月に3500品目以上が値上げされ、7月以降も3万品目の値上げが予定されています。厚生労働省が6日に発表した4月勤労統計調査によりますと、一人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比3.0%減り、減少は13か月連続となりました。4月に日本銀行Topに就任された植田和男総裁に、この円安を早急に是正していただきたい。全労働人口の70%を占める中小企業雇用者にとり、実質所得が上がらない現状の改革は、一刻の猶予もありません。
コンテナ運賃は引き続き下落傾向
英国海事コンサルティング会社、Drewryが6月1日に発表したコンテナ運賃指数は以下の通りです。
コンテナ船運賃指標(WCI) 6月1日 | |||
航路名 | ドル/FEU | 前週比 | 前年比 |
総合指数 | 1,682 | 0% | -78% |
上海/ロッテルダム | 1,543 | 1% | -84% |
上海/ロサンゼルス | 1,782 | -1% | -80% |
上海/ニューヨーク | 2,833 | 3% | -74% |
Drewryは今後数週間、東西航路のスポット運賃はさらに低下すると予想しています。
米国西岸港湾労使交渉は暫定合意も賃金交渉が難航
今年の4月、ILWU/PMAの労使交渉は暫定合意に達しましたが、5日の時点で、米国西岸港湾のいくつかのコンテナターミナルで閉鎖が続いています。ILWUは契約有効期間6年で、毎年、時給7.5ドルの値上げを要求しています。しかしこれを実行すると6年で賃金は倍になる計算となります。PMAは今回、1.56ドルを提示しています。彼らによると過去20年の賃上げ幅は時給0.5ドルから1.5ドルの範囲とのこと。現在、時給賃上げでの幅が大きいために解決に至っていません。PMAはCOVID-19禍で起こった運賃上昇の再来と貨物が北米東岸から戻らないことを危惧しています。荷主団体はバイデン政権に対して政治介入を要請しています。2020年後半から始まったロスアンゼルス港、ロングビーチ港での100隻を超える沖待ちコンテナ船はもう見たくないものです。
2023年5月の新造コンテナ価格、コンテナメーカーのリース会社への提示価格に疑問
5月新造コンテナの製造本数は166,372 TEU (Dry: 146,880 TEU, Reefer: 19,492 TEU)、新造コンテナ工場残は1,004,140 TEU (Dry: 928,671 TEU, Reefer: 75,469 TEU)で、先月から32,092 TEU増加しました。中国大手コンテナ製造会社は新造Dry Containerの注文が十分でないため、季節労働者をレイオフせざるを得ず、その結果、Dryコンテナの製造ラインを止め、製造本数を制限し遣り繰りしているのが現状のようです。新造価格は今月も明らかとなっていませんが、コンテナ製造会社は大手リース会社に対して$2,300 per 20fを提示しているようです。コンテナ価格が安い時に投機的に購入しようとするリース会社に対して、間違ったサインを送っているように思われます。
中国の鋼材市況は低調、LNG輸入先変更は世界景気回復に貢献か。
中国の鋼材の半分以上を占める建設向けが低調で不動産開発の需要回復も遅れています。中国鉄鋼メーカーの生産水準は、減産をしていますが、国内需要に比べかなり高めで推移しています。その為、販売価格を引き下げて国内、アジア、日本で需要喚起を図ろうとしていますが、世界的な金融引き締めによる景気減速の影響で市場が冷え込んでいるので期待薄です。
世界最大の資源輸入国、中国が、LNG輸入先をオーストラリアからロシアへ変更し、国産石炭へ回帰したことで、アジアと欧州でガス価格の低下をもたらしています。先進国がロシアに制裁を科したことにより、安くなったロシア産ガスを購入できるようになったためで、中国の輸入量は4割超増加しました。それは世界のインフレ率低下を招き世界景気の回復に貢献する可能性があります。
中国コンテナメーカーの価格調整と工場在庫の行方
中国コンテナ製造メーカーは、従来の需給バランスでコンテナ価格の調整をするやり方を踏襲し、今は製造価格を下げ、コンテナリース会社に市場に合った価格で提供することを訴えるべきです。そうすると必ず、積極的なコンテナリース会社の中には、これから1年先のコンテナ市場を見込み投機的発注をするところが出てくると考えます。
現在100万TEUを超える工場残の70%は船会社が調達し、残りは30%と言われています。船会社のフリートも10年越えが多く、その代替用のコンテナなので、今年から2万4000TEU船が順次投入されてくると工場在庫も瞬く間に無くなって突発的な需要が出てきます。そうなると船会社は、リース会社が発注した投機的新造コンテナに頼るしかないということになります。
G7広島サミットで感じた岸田首相への期待
最後に、岸田首相にエールを送りたいと思います。それは核廃絶宣言都市、広島で開催されたG7広島サミットでウクライナのゼレンスキー大統領を招待し、法の支配に基づく国際秩序を維持するため結束強化を明記した首脳宣言を発表したことです。外務省も久々のヒットを飛ばしたなと感心しています。日本が世界平和に大いに貢献してほしいと願っています。