【市況レポート】「2大国の不可解な行動と物流への影響」「投資マネーの動きから今後のドル円為替を予測」他 2022年12月

  • by 中尾 治美

2022年の新型コロナウイルス対応

              既に師走。一年が“あっ!”と思っている間に経つように感じるこの頃です。新型コロナウイルスもデルタ株で終わりかなと1年前思っていましたが、今年に入り、たちまちオミクロン株に入れ替わりました。死亡、重症化が少ないとは言え、今も第8波が日本で流行りだしています。そして、毎日、数百人以上の方が死亡しています。”ゼロコロナ政策“を実施している中国を除き、世界は、ほとんどが経済優先で”With Corona“に舵を切ってしまいました。これから冬に向かいインフルエンザとの区別がつかなくなり、更なる混乱が出てくることが予想されます。

2大国の不可解な行動と物流への影響

              今年は不可解なことが2つありました。一つは、ロシアが2月にウクライナ侵攻し、その戦火が今も続いているということです。ウクライナ市民だけでなく、自国のロシア市民にも多くの犠牲者が出ています。ロシアが失うものはあまりにも大きすぎます。このロシアの戦いに果たして正義はあるのでしょうか?世界はロシアに制裁を行い、これが物流混乱、エネルギー危機、食糧問題、ひいては核戦争の恐怖を世界に与えています。
             二つは、中国政府の強権的な”ゼロコロナ政策“です。その徹底ぶりは驚き以外の何物でもありません。世界GDP2位の経済力を削ぐような都市封鎖を各地で行い、14億人もの国民に移動を禁じ、中国を鎖国状態にしています。一方、それは中国の威信をかけた北京冬期オリンピック・パラリンピックを成功させるためだったのか?(北京は夏季・冬季オリ・パラリンピックを行った、ただ一つの都市となりました。)習近平国家主席の第三期5年を実現するためのものだったのか?現実的には、世界のサプライチェーンを中断・分断・破壊し、その輝きを失わせました。しかし人々の必死の抗議行動が政府を動かし、解除に少し動き出したのは明るい材料です。

中国ゼロコロナ政策の徹底、北米滞船の解消

             一方、中国政府の”ゼロコロナ政策“は、予想外の影響を及ぼしました。
             ご存知の通り、コロナパンデミック下における、特に、北米を中心にした”巣ごもり需要“・”リベンジ消費”による強い購買力が、出荷地である中国・アジアでコンテナ不足、スペース不足を引き起こし、更には、米国のロスアンゼルス港、ロングビーチ港に象徴される米国の港における多数の滞船問題を引き起こしました。その結果、空前の海上運賃高騰を引き起こす原因となりました。
             そのような世界的な物流混乱の最中、今年4月~5月の2か月間、中国政府は上海市(2400万人在住)を都市封鎖しました。そのため上海港では300隻以上の沖待ち船が発生しました。また、都市封鎖の間、上海港はじめ中国から北米に向かうコンテナ船の数はかなり制限されました。他方、荷主、船会社は米国西岸から東岸に荷揚港をシフトしたりして、ロスアンゼルス港、ロングビーチ港の滞船問題の解決に努めた結果、現在は滞船がゼロになっているようです。

投資マネーの動きから今後のドル円為替を予測

              米国労働省が2日に発表した11月の雇用統計の非農業部門の就業者数は前月比26万3000人増加です。10月の28万4000人増加からは鈍化しました。失業者は3.7%と10月と変化ありません。平均時給は前月比+0.6%で、10月+0.5から少し拡大しました。IT関連、運輸・倉庫業での大量解雇がありましたが、米国の雇用流動性はかなり高いので、雇用は相変わらず強いし、景気は底堅いと思います。そのため米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げは小幅ながら続くと言われています。
              投資マネーは常に儲けられるところを探して世界中を動いています。急速なドル高に一服感が出た結果でしょうか?“新興国株に投資マネーが回帰している”と言われています。米MSCIの新興国株価指数(現地通貨建て)は11月に11%上がり、2009年5月以来13年半ぶりの月間上昇率を記録したとのことです。新興国株価指数は2021年2月に最高値をつけた後、今年10月下旬まで下げ続けました。11月の上昇率は下落率の3分の一ほどですが、新興国経済成長力に比べ、新興国企業の株安感があるとみているようです。
             一方、米国FRBパウエル議長が2022年に入ってインフレ対策として短期間で利上げを4回行いました。主要各国は自国通貨防衛のため同様に利上げを行って対応しました。しかし日銀の黒田総裁はマイナス金利に象徴される金融緩和政策を頑なに取り続けたため、投機筋に狙われ、今年3月から急激な円安に見舞われ、10月20日に、$1.00=Yen150まで円安が進みました。これにやっと重い腰を上げた財務省が手持ちのドル売り円買いで円防衛を図りましたが、あまり効果は見られませんでした。
             財務省が9月1日に発表した日本の大企業の内部留保は500兆円に迫っています。これだけの資金力がある国の企業株への投資を世界投資マネーが放って置くはずはありません。株高と円高は逆相関関係にありますが、現在のドル・円相場に於ける日本企業株は世界投資マネーにとっては大変魅力的なはずです。日本企業の実力が理解されれば、円ドル為替はもっと評価されて良いと考えます。現在、既に$1.00=Yen 136台の円高まで戻していますので、来年の今頃には$1.00=Yen110~100に戻ると予想します。
             米国上院で鉄道労組に対して政府仲裁案の受け入れを義務化する法案が12月1日に可決されました。これで鉄道労使交渉は収拾に向かうことになります。一方、ILWU/PMAの労使交渉には大きな進展はみられず、2023年に持ち越されるとの見方が出ています。

アジアから米への輸出、コンテナ運賃、コンテナ船社業績の動向

              日本海事センターによると、10月アジア18ヵ国・地域発米国向け輸出は前年同月比9%減、162.5万TEUと2か月連続の前年割れとなり、減少幅は9月の3%減から拡大しました。その原因は中国からの輸出の落ち込みが20%減の87.1万TEUと大きかったからです。一方、ASEAN(東南アジア諸国連合)からの輸出は22%増、41.5万TEUで、その中でもベトナムの29%増、19.9万TEUが目立ちました。日本の輸出も25%増、5.3万TEUとなりました。
              Shipping Guideが、Drewry Maritime Researchが12月1日に発表した主要8ルートの世界運賃指数(WCI)を引用しています。それによると、総合指数は$2,284.10/FEUと前週から5%下落、40週連続で値下がり、前年同期比で75%下落しました。ピーク時、2019年9月の$10,377/FEUより78%低下、過去10年平均の$2,639/FEUを15%下回ったと伝えています。先週のスポット航路別運賃は上海からNew Yorkが前週比9%($438)下落し$3,408/FEU。上海からLos Angelesが1%($30)下落し$2,039/FEUです。まだまだ暫く、運賃調整は続くと予想されます。
              主要コンテナ船社の2022年7-9月期の業績は、夏場以降コンテナ運賃が軟化したものの、前年に比べて増益を確保し、引き続き記録的な利益を計上しています。但し、利益水準は4-6月期に比べ横ばいか減益となっています。売上高利益率は、Maerskが48%、CMA-CGM 46%、Hapag-Lloyd 58%, Zim 60%, HMM 55%, Evergreen 64%, Yang Ming 58%, WAN HAI 39%, ONE 59%を記録しています。

11月の新造コンテナ情報

              11月末の新造コンテナ価格は、$2,050 per 20fで、前月比$100減、マイナス4.7%となりました。1月の価格、$3,400 per 20fに比べ、$1,350減、マイナス40%となりました。新造コンテナ生産数は、176,500 TEU (Dry: 148,590 TEU, Reefer: 27,910 TEU)でした。1月から11月までの総新造コンテナ生産数は、3,525,596 TEU (Dry: 3,260,044 TEU, Reefer: 265,552 TEU)でした。11月末の新造コンテナ工場残は、1,043,776 TEU (Dry: 969,150 TEU, Reefer: 74,626 TEU) となりました。11月工場出荷数は、179,309 TEU (Dry: 149,492 TEU, Reefer: 29,819 TEU)でした。

リースコンテナの返却スペース不足問題

              ある研究機関は、北米で余剰コンテナが2023年1月に430万TEU生じると予想しています。現在、船会社は余分なリースコンテナの返却を全世界中で始めています。しかしリース会社が全世界で返却を受ける港数は多いですが、実際に、船会社に貸しだしているコンテナが返却されても、それを収容できる規模のスペースを確保していません。過去3年間(2020年、2021年、2022年10月分までを含む)の新造コンテナが船会社の余剰分と考えることができます。その合計(Dry+Reefer)は約1300万TEUです。リース会社は船会社の深い理解を得ることに努力するしかありません。世界各地のコンテナ蔵置スペース(off dock)がビックリするぐらい少ないことがさらけ出されました。

世界と対等に戦える日本の若者に期待

              World Cup における日本チームの活躍には目を見張るものがあります。決勝リーグに進み、クロアチアに1対1でPK戦に臨み、負けました。ここまで20代の日本の若者が物おじせずに欧州の有名なプロ選手と戦えるのは、彼等が欧州のチームでPlayしているからであると解説者が言っていました。寝ぼけ眼で同意しました。若者よ!世界に出よ!
              現在の弊社社員数は25名。そのうち半分が若者です。また3分の1が女性です。特に女性の成長、活躍には目を見張るものがあります。今後、日本の若者、女性に大いに期待したいと思っています。

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