【市況レポート】「アジア金融危機以来の深刻な円安危機」「リース会社はデポスペースの確保に苦悩」他 2022年11月

  • by 中尾 治美

アジア金融危機以来の深刻な円安危機

   11月2日、米連邦準備理事会(FRB)は0.75%の利上げを決めました。6月以来4回連続の0.75%の利上げです。3月のゼロ金利解除から利上げ幅は3.75%となり、同じ期間にこれだけ上昇したのは1981年以来のことです。ドル高の影響を受けている国が世界の8割に及ぶと言われています。パウエル議長は今後の利上げについて景気後退を避け、高インフレを軟着陸させることを狙っているようです。一方、世界中が高物価に悩む中、欧州の中央銀行もインフレ対策のために米国金利上昇に呼応して利上げを実施しました。その中で“異常な金融緩和”、“ゼロ金利政策”を実施しているのは日本一国のみです。
   2018年に再任された黒田日銀総裁は来年4月8日で5年の任期が切れます。黒田バズーカ砲は何度も的を外し、球切れ状態にもかかわらず、何の政策変更をしないと開き直っています。10月20日、東京外国為替市場の円相場は、1990年8月以来、32年ぶりの円安水準$1.00=150円になりました。日本企業の7割を占める中小企業の従業員、約3,220万人は急激な輸入価格高騰による物価高で苦しんでいます。
   少なくともこの3年及ぶCOVID-19影響下、来年の給与が現状の物価高以上に上がると期待している人はいないと思います。厚生労働省の所定内給与の賃金指数によると、2001年から2021年までの20年間で僅か2.8%の上昇で、年率に直すと0.14%という低さです。勿論、日本は過去30年間のデフレ下、低賃金に甘んじ、高度成長期のレガシーを食いつぶし、労働生産性と技術力の低下を招いています。物価高以上の賃金上昇も期待できません。現在の日本に、“有事の円買い”は期待できません。
   帝国データバンクによると、10月末時点の国内値上げ品目は6699品目、11月が833品目で、合わせると7500品目を超えます。更に来年、値上げを予定している品目は2000品目を超えると言われています。今の円安が続くようであればこの値上げラッシュはもっと続くことになります。この値上げの半分は円安要因であると言われています。財務省が円買い介入を何度か行いましたが流れを止めるまでに至っていません。
   1997年7月に起こった“アジア金融危機”を思い出します。米国ヘッジファンドなどの機関投資家によるタイ通貨(バーツ)の空売りから始まりました。タイ、インドネシア、韓国はIMFの管理下入りました。一方、日本も例外でなく、1998年10月7・8日の2日間で20円の円高に会い、同年、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻、国有化。北海道拓殖銀行、日本リース破綻、山一證券自主廃業を招きました。今の日本の円安危機は、アジア金融危機のタイ、インドネシア、韓国と重なります。

日本政府はその場しのぎや人気取りではなく本気で取り組んでほしい

   岸田首相は10月28日、”物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策“を打ち出し、財政支出39兆円を決定しました。家庭電力料金を来年から、1キロワットアワー当たり7円補助、都市ガスは1立方メートル当たり30円支援しようとしています。ガソリンは、石油元売り各社に対して支給している補助金について、年末までの期限を来年前半まで継続しようとしています。新生児に対して10万円の支援を行います。
   しかし、これでは根本的な解決になりません。ただの人気取りとしか見えません。これでは今の円安・物価高の根本的解決になりません。早急にゼロ金利政策を止め、他国と同じように金利を上げ、ドルに対して円通貨を$1.00=120円または$1.00=110円まで強くすべきです。それでなければ国民の信頼を得ることはできないと思います。
   何故ならば、日本経済新聞と日本経済研究センターが理論値として推計した”日経均衡為替レート”は4~6月を$1.00=112円80銭と算出し、その時の実勢レートは129円でした。また国際通貨研究所によると、消費者物価指数(CPI)に基づく円の購買力平価は9月で$1.00=108円台と算出し、9月の実勢レートは140円台で大幅な円安水準にあると指摘しているからです。
   国がしっかりした決断を示さないと為替操作で儲けようとするヘッジファンドを撃退することはできません。岸田総理には真剣に円安問題に取り組んで、直ぐに何らかの手を打ってほしいと思います!

失業率からわかる米国経済の強さ

   11月4日、米労働省が発表した10月雇用統計は非農業部門の就業者数は、市場予想を上回り、前月から261,000人増加しました。失業率は3.7%で前月から0.2%上昇しましたが、労働需給の逼迫は雇用コストの増加によるインフレ要因を高める結果になります。ツイッターの経営権を握ったイーロン・マスク氏が全社員の約5割の人員削減に手を付けたように、IT分野を中心に景気減速で人減らしが目立ち始めています。しかしそれでも失業率が4%を上回らないのは、米国労働市場の広い分野で人出不足が続いているということです。米国経済の力強さを感じます。

ゼロコロナ政策、米鉄道労使交渉、米大統領のレイムダック化

   10月の中国国慶節明け以降もアジア発欧米向けスポット運賃の下落が続いています。11月4日付の北米西岸向け、$1,681 per FEU、北米東岸向け$4,890 per FEUで、北米東岸向けが$5,000 per FEUを切るのは2021年4月以来です。北欧向けも$1,763 per TEUと、2020年11月以来の$2,000割れとなりました。中国で現在も継続的に適用されている“ゼロコロナ政策”が経済活動及びサプライチェーンに与えるマイナス影響は計り知れないものがあります。
   米国港湾の大量滞船問題は片付いてきましたが、予断を許さないのが米鉄道労使交渉です。米鉄道のストの可能性があります。もし発生したら内陸輸送の混乱が、北米港湾滞船を引き起こす可能性がありますので目が離せません。
   11月8日に行われた米国の中間選挙では上院、下院とも共和党が有利であると言われています。バイデン大統領がレイムダック化していくと、ロシアのウクライナ侵攻問題を始め世界に与える影響は少なくないと考えます。さらに世界が混沌として何が起こるのか読めない時代になってくることに不安を禁じえません。

ONEの利益が親会社の体質を改善

   10月31日、Ocean Network Express(ONE)が、2022年4-9月期決算を発表しました。税引き後利益は前年同期比、63%増、110億1900万ドルでした。コンテナ運賃市況は落ち込んで来ていますが、21年度に大幅値上げした年間契約分の利益が押し上げたと言えます。通期の税引き後利益は9%減の152億6900万ドルと減益を予想しますが、円安効果で通期利益は日本円換算2年連続2兆円超え、2兆2600億円を見込んでいます。一方、11月7日の業界紙が一斉にOcean Network Express(ONE)がそれぞれの親会社に対して剰余金の配当をすることを報じています。配当金額の合計は55億600万ドル(約8100億円)です。配当金は日本郵船が20億9200万ドル(約3100億円)、商船三井、川崎汽船が各々17億700万ドル(約2500億円)です。また各親会社3社はこの1年で自己資本比率を2022年9月末現在、日本郵船が62.0%、商船三井51.8%、川崎汽船70.2%と大幅に改善しました。2021年3月末時点の自己資本比率が20%台であったことを考えると、ONEが親会社の体質改善に大いに貢献していると言えると思います。ONEには引き続き世界のコンテナ定期船業界でリーダーとして活躍してほしいと願っています。

2022年10月新造コンテナ情報。リース会社はデポスペースの確保に苦悩

   北米に滞留する過剰在庫、約430万TEUに対して、船会社は全世界でリース会社にコンテナを返却し始めています。船会社自身、過去3年間、COVID-19によるパンデミックに起因するサプライチェーンの混乱で北米・欧州から需要地である中国・アジアにコンテナをタイムリーに回送できなかったため、中国の新造コンテナを必要以上にリースをせざるを得ませんでした。もう一つの深刻な問題があります。それはリース会社が船会社から不用となったコンテナの返却を受けるだけのスペースを各地で確保できるのかということです。
   10月新造コンテナ生産量は132,775 TEU(Dry: 122,207 TEU, Reefer: 10,568 TEU)。
10月末現在の新造価格は$2,150 per 20fで、先月より$200 (▲8.5%)の値下がりでした。今年1月末に比べると、$1,250 (▲37%)の値下がりとなりました。月末新造コンテナ工場在庫数は1,046,585 TEU (Dry: 970,052 TEU, Reefer: 76,533 TEU)です。10月中の新造コンテナ引き取り数は178,775 TEUとなりました。ほとんどが船会社によって使用されたとすると最低でも同じ本数がリース会社に中国で返却されたと考えられます。上海、釜山で既にデポスぺース不足問題が発生しているようです。日本も例外ではありません、船会社が日本を中国、アジアのコンテナ在庫の一時的避難蔵置場所として活用している現状、コンテナの在庫が積み上がることを否定できません。リース会社が神戸・横浜でデポスペース確保に四苦八苦しているようです。

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