【市況レポート】米国の景気後退と海運業界バブルの反動 2022年10月

  • by 中尾 治美

米国の住宅市場冷え込みと景気後退の可能性

米国住宅市場

   米労働省が7日に発表した9月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から26万3000人増加しました。但し2か月連続で伸びは減少となりました。一方、4日に発表された8月の求人件数は1005万件超えですが、前月から111万件以上減少しています。失業率は3.5%で、先月の3.7%から0.2%改善しました。就業者も景気の先行きを見定め、早めの就業先を見つける努力をしたのでしょうか?
   米国住宅市場に変化の兆しが出始めました。リーマンショック以来、COVID-19の財政支出、金融緩和で2021年の中古住宅販売は2006年以来最高を記録しました。しかし金利上昇の影響で、30年固定住宅ローン金利が14年ぶりに6%を突破しました。住宅ローン金利が6%を超えると、住宅市場の9割を占める中古住宅の販売が悪くなると言われています。一方、成約した住宅のキャンセルが出ています。7月には16%の解約率が出ました。COVID-19が始まった直後を除き最高ということです。その背景には住宅価格の鈍化と住宅ローン金利の急上昇があると言われています。その結果、2023年の住宅販売は12年ぶりに低水準に落ち込むと予想されています。家計資産の中核である住宅価格が下がると、消費者心理を冷やす恐れが出てきます。
   米サプライチェーンマネジメント協会が3日発表した9月の米製造業景況感指数が50.9 と前月から1.9ポイント低下しています。2か月ぶりの低下となりました。新規受注の悪化で採用活動を凍結する企業も出てきています。米国小売業協会は8月の商品輸入実績は前年度比0.4%減、226万TEU、9月は3%減、207万TEU,10月は9.4%減、200万TEU、11月は4.9%減、201万TEU、12月は6.1%減、196万TEUと予想しています。今年1-8月の売り上げで前年同期比7.5%増加を達成しました。2022年の年間で6~8%増を見込んでいます。小売業者は今年前半に物流の混乱対策で早期の在庫確保に動きだし、後半は調整局面に入っています。米連邦準備理事会(FRB)は2022年10~12月期の実質成長率をゼロ%とみています。米銀大手JPモルガン・チェースは米国や世界が6~9ヵ月後に景気後退に追い込まれる可能性を指摘しています。

コンテナ運賃は継続して下落、北米に過剰在庫、新たに保管スペース問題

北米航路

   Shipping Guideが10月6日に発表したDrewry Maritime Research(英国)の運賃指数を引用しています。それによると世界主要8ルートの世界コンテナ運賃指数(WCI)の総合指数は$3,688.75 per FEU、前週から8%下落し、32週連続の値下がり、前年同期比64%下回りました。ピーク時の2021年9月の$10,377 per FEUから64%の下落となりました。過去5年平均$3,723 per FEUを1%下回りました。主な航路の先週比スポット運賃を見てみますと、上海/ロスアンゼルスが9%($288)下落し$2,995 per FEU, 上海/ニューヨークが5%($391)下落し$6,887 per FEU, 上海/ロッテルダムが13%($717)下落し$4,724 per FEUと落ち込みました。
   中国の”ゼロコロナ”政策による上海市の2か月の都市封鎖による北米向け荷動きへの影響は深刻で、9月の中国発北米向けは2020年以来の2桁減少でした。中国からの国慶節前の輸出混雑は見られなかったようです。北米西岸の沖待ち滞船は現状ではほとんど解消されているようです。スポット海上運賃は$1000 per FEUを超える過去最大の下落を記録しました。各アライアンスは、北米航路の荷動き需要減少による海上運賃下落防衛のため10月中旬以降、欠便、サービス休止により投入船舶量削減をもって対抗しようとしています。サプライチェーンが正常化され、北米で船会社のリースコンテナの返却が進捗する中で、北米から各船会社が中国・アジアへの空回送が思うようにできない現状に対して、海運調査会社、Sea Intelligence(デンマーク)は2023年初めまでに北米で過剰空コンテナ滞留本数は430万TEUに達し、北米各港でコンテナ保管スペース確保に支障が出ると警告しています。

コンテナ船社のEU独禁法除外延長に荷主が反発

EU コンテナ

   欧州の荷主、港湾、物流、輸送関連10団体は3日、欧州委員会(EC)に対し書簡を提出し、コンテナ船社コンソーシアムのEU競争法からの一括適用除外規制(BER)の変更なしの延長に反対を表明しました。書簡では、2020年のBER更新以降、市場は激変し、船会社が市場から大幅な利益を得られるようになっていることを指摘しています。規制当局は、市場と消費者の関係をもとに除外規定の再延長もしくは打ち切りを判断するとしています。適用除外規定は、特定の条件下で、市場シェアが30%未満の船会社がコンソーシアムに参加し、共同で貨物を引き受け運航することを認めています。現在の規定は2024年4月25日に期限を迎えます。今後、船会社は大きな試練を乗り越えなければなりません。過去、2年半にわたり高額の海上運賃を享受してきた船会社に対する反動は、好景気の山高ければ谷深し、と昔の人が言うように、大きいものになることが予想されます。

コンテナリース会社を待ち受ける苦難

   コンテナリース会社も例外ではありません。ファイナンス・リースに近い10年あるいはそれ以上の長期リース、破格のコンテナリース条件を謳歌してきたリース会社も、今後、船会社から全世界で余剰になったコンテナの返却を受けざるを得ません。その時、リース会社は船会社からのリース料収入も失う一方で、デポ保管費用というコストを負担する必要があります。まさに、ダブルパンチを受けることになります。更に、世界の港のコンテナ置き場としての後背地は限りがあります。果たしてリース会社は返却を受け入れるだけのスペースを確保することができるのか?そのために奔走しなければならない局面が出てくることが予想されます。

9月新造コンテナ情報

   9月の新造価格の値段は、$2,350 per 20fでした。先月から$200(7.8%)値下がり、今年1月($3,400 per20f)と比較して$1,050(31%)の値下がりでした。新造コンテナ数は343,972 TEU(Dry: 319,023 TEU, Reefer: 24,949 TEU)、8月と比較して7.8%減少です。新造コンテナ工場在庫数は、1,092,585 TEU (Dry: 1,008,739 TEU, Reefer: 83,846 TEU) 、8月より48,474 TEU, 4.6%増加しています。

福山にてリーチスタッカー納入、御祓いの儀に参加

   内輪の話ですが、10月初め、福山でNX備通さんに納めさせていただいたKalmar社製Reachstackerの御祓いの儀に参加させていただきました。これで、昨年から今年にかけて成約した7台の3台目の納入です。神主さんの祝詞に緊張感の漂う厳かな儀式の中、私も敬虔な気持で身が引き締まりました。最新鋭の機械を前に日本古来の安全祈願をされるNX備通さんのマネジメントの方々の社員を思う心に感動し、人間工学に基づいた卓越した居住性と操作性を持ち合わせたKalmar社製Reachstackerが現場の方に喜んで、長く使用していただけることを確信して、NX備通さんの更なる発展と成功を祈りつつ福山を後にしました。

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