巨大コンテナ船投入がコンテナ需要を喚起? | コンテナ市況レポート | 2014年6月号

  • by 中尾 治美

5月23日(金)朝、全長約400mの黒船が、その巨体を横浜港南本牧埠頭に接岸した。黒船の正体は、”Marstal Maersk”、20fコンテナ積載能力18,000teu。マースクラインのトリプルE級の10隻シリーズ船の8隻目。6月からアジア・欧州に投入され る。その途中、日本でお披露目された。その巨大さを比較すると、今年の3月に横浜に寄港した第三代目の豪華客船、”Queen Elizabeth” の全長294m、東京タワー333mと比較するとその巨大さが分かるであろう。米国の400m世界記録保持者、マイケル・ジョンソンが船首から船尾まで走 るのに、43.18秒かかる長さである。

その巨大さは、日本の港湾関係者に世界の海運の動きの一面と日本の現状のギャップを見せつけたのではないだろうか? 日本でコンテナ生産が行われ、アジアのコンテナ貨物の7割以上が日本から全世界に輸出されていた時代の1980年代半ばUS Lineが5,000teuの船を太平洋航路に投入してきた。その船が横浜に入港した時、その大きさに驚かされたものである。 2,000~3,500teuのコンテナ船が主流の時である。残念ながらその5,000teuの船の欠点は、船足が、小生の記憶が正しければ12ノット (?)で、時代のニーズに合わず、US Lineとともに1987年市場から姿を消してしまった。

あれから30年、日本からのコンテナ貨物輸出の割合は衰退の一途をたどっている、今は、1割を切り6~7%と聞いている。将来、日本の輸出が昔の勢 いを取 り戻すことは皆無に等しい。だからこのマースクラインの巨大コンテナ船が日本に定期寄港することは無い。しかしマースクラインに感謝である。我々に桁違い の世界のスケールを見せつけてくれたからである。一方、輸出増加は望み薄であるが、日本の港湾はハブ港になりえたはずである。横浜港、神戸港は北米航路に おいてハブ港としての地の利がある。その地位を釜山港に譲っているのが現状である。世界第2番目のコンテナ取扱量を誇るシンガポールは取扱量の85%が Transit cargoである。第5番目の釜山港は48%、第13番目の高雄港も48%を占める。シンガポールは今でも拡張工事を止めていない。2020年には 6,500万teu (現在の2倍強)まで拡張を予定している。たゆまない努力。日本も世界の動きから取り残されないためにも、使い勝手のあるコンテナ港に向かって努力すれば 世界に貢献できるのではないか?まだまだ遅くはないと考える。これからもコンテナリゼーションは進化することはあっても後退は無い。輸出業者、製造業者、 船会社、港湾業者にとって魅力ある港(外航、内航)に脱皮していければと期待している。

皮肉なもので今のコンテナ船は巨大化する一方、スピードではなく、運行経済性を追求している。米国、欧州で3大メガアライアンスの認可がおり、その 他の国 の認可待ちであるが、秋口には、P3、G6,CKYHEがいよいよスタートするであろう。コンテナリース会社の役割はますます大きくなる。なぜなら船会社 はさらにコンテナを必要とするからである。中国、アジアからの輸出・輸入の実需に加え、次の要因が船会社にコンテナ増加の圧力となる。

古いコンテナの入れ替え ―> 10~15年での入れ替え
巨大コンテナ船投入 ―> 一度に使用するコンテナ数量の増大
コンテナ船のカスケード化 -> 基幹航路以外でのコンテナ需要増
コンテナ船の経済的運行  ―> 減速航行に依るコンテナ使用日数増
船会社の巨大アライアンス化 -> 各船社の必要回送本数確保問題
天候的要因 ―> 今年2月の米国大雪、欧州大雨等の不確定要因
社会的リスク要因 ―> 港湾業者・トラック業者によるストライキ等

現在、中国のコンテナメーカーの新造コンテナの在庫は70万teuとも50万teuとも言われている。それはここに来て船会社のリースに対する需要 が強 く、その上、早めの引き取りを開始しているからである。リース会社も自社工場残を見ながら追加発注をしている。コンテナメーカーは10月までの製造ラインを確保しているようである。製造ラインを確保することを優先させたためか、コンテナ価格は$2,100 per 20f前後で落ち着いているようである。

米連邦準備理事会は米国の経済活動の拡大を確認した。5月の非農業部門の雇用者数は前月比217,000人増。失業率は6.3%、また5月は新車販 売台数 が、10年ぶりに160万台を超えた。新車販売台数に象徴されるように、個人消費は全土で拡大している。その結果、6月に入りNY株は過去最高値を更新し ている。欧州では欧州中央銀行(ECB)は欧州の停滞している余剰資金にカツを入れるため、政策金利を0.1%引き下げ、過去最低の年0.15%にすると ともに、民間銀行が余剰資金をECBに預け入れた場合に一定の手数料の支払いを求める“マイナス金利”政策(利率マイナス0.1%)を採用、市中への低金 利資金の還流とユーロ高の抑制で経済再生を目指す。

中国の今年の成長は7%を割ると言われているが、それでもその輸出量は膨大である。引き続き世界の経済の牽引役を果たす。一方、日本の経済は再建 まっただ 中である。法人税の納税は予想より1兆円増える見込み。設備投資は32業種のうち24業種で昨年度実績を上回る。4月の給与総額の平均の伸び率が前年同月 比0.9%増。その景気を後押しするために、現在の法人税率、35%から20%台への減税を検討している。これが実施され、プラススパイラルの経済成長を 期待したい。この調子で世界経済が順調に回復し、世界の貿易量の拡大を大いに期待したい。そして海運界の繁栄を祈りたい。

関連記事

TOP