コンテナ市況レポート 2012年10月

  • by 中尾 治美

9月中旬12年振りにシンガポール空港に降り立った。格安チケットで往復とも香港経由のキャセイパシフィックを使用し、香港でのトランジットは行きが1時間(乗り継ぎ機が1時間遅れたため2時間の余裕)、帰りは2時間であった。直行便の8時間近く飛行機の中の缶詰状態は辛いものがある。フライト時間が、羽田・香港、香港・シンガポール間それぞれ4時間弱であり、香港で2時間の待ち時間は体調を整えるのには丁度良い。但し、羽田・香港行きはほぼ満席のためか機内はガンガン冷え切っていて上着を着用したが、更に毛布を使用せざるを得なかったのには閉口した。しかし香港・シンガポール行きは7割程度しか席が埋まっていなかったためか、貰っていた毛布を掛ける必要はなかった。昔、香港の現地スタッフがエアコンから冷たい空気が流れ出て来るのを”新鮮な空気!”と喜んでいたのを思い出した。

夜8時近くの到着ロビーに何年か振りに会う友人が笑顔で迎えてくれた。ホテルのチェックイン前に海が見えるシーフードレストランで豪華な夕食を御馳走になった。市街地には超近代ビルが林立するが、古い街並みも外装を新たに残されている。昔に比べ道路は格段に整備され拡張されている。今でも何処かで道路工事、ビル建設が盛んに行われている。地下鉄が出来て交通渋滞はかなり緩和されたと思う。試しに一駅乗ってみたが、地上で直線距離を歩いた方が近い。

シンガポール港はコンテナ貨物取扱量では世界第2位であり、世界のハブ港として活躍している。コンテナ船運行船腹量世界6位のAPL(NOL)、19位のPILを擁し、日本の船会社2社、日本郵船、川崎汽船が定期船部の本社機能をシンガポールに置いている。”ガーデン・シティー”を強調するように、マリーナ・サウス地区360ヘクタールを新たに埋め立て、Gardens by the Bay公園を造り、巨木をイメージした塔を建て巨木間をSkywalkで繋いで訪れる人を楽しませている。その中に、あの天空プールで有名なMarina Bay Sands Hotelsもある。東京都と同じ国土面積、GDP、2,598億ドルは埼玉県と同じ規模。但し、国民一人当たりのGDPは49,270ドル。国際競争力は世界第2位(日本は10位)、17%の富裕層が一人当たり100万ドル以上の金融資産を持っているリッチな国である。2005年にカジノを認め、世界で4番目に外国人観光客が多い国である。2008年9月にF1シンガポールグランプリの夜間開催レースを招致した。小生が帰国する3日後の開催に向けて準備をしていた。資源の無い国が如何に生きるか?観光立国のための世界のハブ空港、金融センターを目指し、世界第2位のコンテナ貨物取扱ターミナル会社(PSA)は海外進出し世界の港湾にその活躍の場を求めている。常に世界の注目を浴び、世界をリードするシンガポールの行動力は、日本にとっても大いに見習う点があると思う。12年前より更に輝きを増していることを羨ましく思った。

国慶節の休みから開けた10月8日(火)より中国は動きだしている。その間7億の人が移動したと言われ、中国商務省の発表ではこの期間の小売・飲食業の売上は前年同月比15%増約8006億元(9兆9000億円)と発表した。このダイナミックな個人消費を支える国民の力は強みである。但し世界の資源を爆食していると揶揄され、世界を引っ張ってきた中国は今過剰設備、過剰在庫に悩んでいる。中国鉄鋼大手、宝鋼集団が最新鋭の還元製鉄炉を停止した。中国他社が追随するかどうかがが焦点となる。中国の2011年の粗鋼生産量は約6億8000万トンで、世界の生産量の半分を占め、生産能力は約9億トンを有する。日本の生産量は約1億トンである。

中国のコンテナ工場在庫は35万teu前後。コンテナ価格は大手リース会社の買値で$2300 per 20F。ほとんどのコンテナメーカーが10月の連休後、引き続き生産ストップして様子見の態勢を取るところが多いと思われる。リース会社は調達資金を好調な需要のリーファーコンテナにシフトしたが、需要が思うほど伸びず、新造リーファーコンテナの在庫を減らすことで資金回収を早めた模様である。10月1日の北米東岸港湾のストライキは使用者団体(USMX)と北米東岸港湾労組(ILA)の間で90日延長の合意に至り当面のストは回避された。

話は変わるが、9月に日本キリスト教団関東教区主催の畠山重篤氏の講演“森は海の恋人~人の心に木を植える”を拝聴する機会を得た。畠山さんは宮城県気仙沼でカキ養殖をやられている方で、陸の鉄分が海の生き物に大きな影響与えていることを実体験で知り、“森は海の恋人”をキャッチフレーズに1989年から広葉樹林の植林運動を始めた方である。現在は京都大学フィールド科学教育研究センター社会連携教授をされている。2011年に畠山さんは国連森林フォーラムにおいて世界で森を守るため地道で独創的な活動をした功労者に贈られる “フォレストヒ―ローズ”を受賞した。後日、畠山さんが書かれた著書を5冊アマゾンで注文し、2日後に送られてきた時には、畠山さんが5人一遍に我が家に来ていただいたようで嬉しくなった。

水が山のミネラル(特に鉄分)を海に運ぶ。鉄イオンが植物プランクトン、海藻に栄養素の吸収を手助け、それを動物プランクトンが食べ、食物連鎖で多くの魚で海が豊かになる。しかし豊であった漁場も山にダムができることにより、その栄養素が堰き止められることで食物連鎖が破壊される。海に鉄を戻す必要がある。アサリの砂出しのために釘を入れることや、元気の無い松の盆栽の根に釘をさすと生き生きしてくるのも鉄が作用している。これは人間も一緒である。我々も鉄分が不足すると貧血になる。

1980年代半ばまで古いコンテナをどう処分するかが船会社、リース会社の大きな頭痛の種であった。コンテナは鉄の塊で、コンテナの役目を終えて中古コンテナは無用の長物となる。世界で現在3000万teuのコンテナが運用されている。そのコンテナのうち毎年1割が中古市場に出て来るとすると300万teu。毎年この数は右肩上がりで増えて来る。鉄は再生可能である。物理的に再生が不可能なコンテナを使用し、豊かな漁場を造るために鉄を海に還元出来ないか? 勿論植物プランクトン、海藻が栄養を吸収しやすい方法で。コンテナを魔法の箱に変えることが出来たらと考える。海藻は海の森林で光合成により二酸化炭素を吸収し酸素に変える。日本の海で生育する海藻で日本の二酸化炭素の大部分は回収できるとする。地球の温暖化も防ぐことができる。福島県、宮城県、岩手県沖の三陸沖は世界三大漁場の一つである。その理由は中国大陸から微量な鉄を運んでくる黄砂であり、モンゴル高原を源とするロシアと中国の国境を流れるアムール川がもたらす鉄がオホ―ツク海に出て親潮に乗って三陸沖まで流れて来るためであるとのこと。

畠山さん曰く、フランス、パリで出されるほとんどのカキと北米西岸のカキは宮城県産のカキ種であるとのこと。フランスのカキはウイルスにやられ全滅しかかったため、1969年に宮城県産のカキ種が輸出された。アメリカ西海岸へは宮城県産の大粒のカキの養殖技術が公開されたためである。畠山さんの著書の一つである“森は海の恋人”は英訳で“The Sea is longing for the Forest”と言う題名で出ているので海外の人も是非読んでほしい。

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